先日、ニュース番組で「牛肉の見分け方」という特集があった。
九州に「牛肉偽装発見の達人」というおじさんがいて、彼によると、見分け方のポイントは、1)色、2)匂い、3)水分、だそうだ。なるほどねと思うところもあるし、どうかなー?と思うところもあるので、僕なりの見解を公開しようと思う。
1)色
「輸入牛→国産牛→和牛の順に赤色が鮮やかで、脂肪の白色もはっきりしてくる」
僕の見解<以前はおおむねそーゆー傾向があった。でも最近は冷凍輸入牛でも、肉色に関してだけなら、和牛と見まがうほど色鮮やかなものも流通している(特にカルビ等)。
ミンチ材として冷凍輸入されているものなどは、半凍結でミンチにすれば肉中温度が上がらないため、フレッシュ(生)の国産牛をそのままミンチにしたものよりはるかに鮮やかな赤色になる。
また、牛は工場生産された規格品とは違い、一頭ごとの個体差が大きいし、同じ血統の牛でも育て方(特に餌、水など)や処理技術(温度管理、熟成度など)によって肉色が異なることはよくあるケースだ。
同一の牛でも、部位や鮮度によって肉色は違うし、極端な場合、屠畜直前に水分を大量給餌した中ランク以下の鮮度劣化した和牛のランプと、日本人向けに海外で飼育された牛を現地工場で迅速に処理し急速冷凍した輸入牛のカルビを上手に解凍したもの(冷塩水処理などをして)なら、肉色もサシも輸入牛の方が鮮やかである可能性が高いだろう。
また、ほとんどのスーパーの精肉売場のショウケースには、肉の色が鮮やかに見えるように赤色蛍光灯が使用されているため、肉色による判断を困難なものにしている、という問題もある。
2)匂い
「匂いを嗅ぐと、輸入牛は独特の匂いがある」
僕の見解<たしかに匂いは肉の品質を計るキーポイントだ。僕も枝肉の熟成度を調べるため匂いを嗅いでみることがある。ただし一口に「匂い」と言っても肉の匂いには「熟成臭」「チルド臭」「グラス臭」※など多様なものがあり、一般人では嗅ぎ分けるのは困難だろう。火を通すなど熱を加えると匂いはわかりやすくなることもあるが、まさか店頭で焼いてみるってワケにもいかんしねー。
※参考
「熟成臭」=発酵食品の匂いに似た、香ばしいような匂い。肉の熟成の目安になる。
「チルド臭」=真空包装された部分肉に長期保存のため内部にたまったドリップ(肉汁)が染みこんで酸っぱいような匂いを発することがある。国産牛でも和牛でも、あんまり長期にわたって保存したり保存状態が悪いと匂う。
「グラス臭」=穀物を給餌して肥育する期間が短かったり、草ばかり与えられた牛は、ほのかに草の匂いがする。和牛は穀物肥育期間が長いため、まず匂わない。最近は輸入牛でも「ロンググレイン」といって長期穀物肥育したものもあって匂わないものも多い。また乳用種(ホルスタイン等、国産牛の大多数)の場合、かすかに乳臭い匂いがするものもある。
3)水分
「一般に輸入牛は水分含有率が高いので、肉質が荒い」
「国産牛の水分は軟水、輸入牛の水分は硬水」
僕の見解<確かに水分含有率が高いと、火を通すと水分が抜け肉はパサパサした食感になりやすい。以前の輸入牛は冷凍物が多く解凍技術も未発達だったため、パックし たトレイにたくさんのドリップが溜まることも輸入牛を見分けるポイントであったが、最近は輸入肉も冷蔵状態で流通してることも多いし解凍技術も目覚ましく発達しているため、判断の決め手とは言えない。国産牛でも和牛でも、育て方によって輸入牛より「水っぽい」肉質のものもあるし、鮮度劣化によってドリップがたくさん出るケースもある。
いずれにせよ、前述のとおり牛肉の善し悪しを判断するには、牛の個体差や餌、肥育期間、処理方法、部位、熟成技術、鮮度など、多くのファクターが必要で、水分含有率だけで輸入、国産、和牛を見分けるのは不可能と言っていい。硬水、軟水に関しては、牛に与えられる水が国内と海外ではそうなので、肉の水分もそうなのかも知れないが、専用の分析装置がなければ分析不可能なので論外。
まとめ>
和牛は輸入牛や国産牛に比べて飛び抜けて品質が優れているため、僕たちプロが見れば見間違うことはまず無い。(最近は「F1」といって和牛と国産牛を掛け合わせたものもあり、これに限っては和牛の低ランクのものと見ただけでは判断がつきにくいのだが)
和牛は全然別格だけど、飼育技術や処理技術、輸送方法の発達によって、近年輸入牛と国産牛の差はほとんど無くなってきている。USプライム(アメリカ産牛肉の最高ランク)と国産牛の裾物(最低ランクのもの)なら、USプライムの方が品質も価格もいいだろう。
僕が肉を見るとき、肉色やドリップなど見た目(視覚)の他に、香り(嗅覚)、肌触りや包丁を入れたときの手の感覚(触覚)、筋肉組織や脂肪分を生でほんの少し口に入れ風味を確かめたりして(味覚)判断の基準にしている。長年の経験があるプロがそこまですれば、まず品質を見間違うことはない。
でもそれとて品質を判断しているのであって、産地や安全性を分析出来るというわけではない。(秋刀魚を食べて「旨い」とか「新鮮だ」とかはわかるけど、味覚だけでそれが釧路沖で獲れたのか三陸沖で獲れたのかなんて目隠しテストされたらわかるワケないでしょ?回遊魚なんだし)
前述のように、知識と経験を持つプロによる五感を総動員した品質判断に加え、仕入調査や売上分析、抜き打ちでの立入捜査や市場動向の把握などにより、かなり正確な産地分析は可能だろうが、DNA鑑定でもしないかぎり輸入牛と国産牛と和牛を完全に見分けることは不可能だ。
結果として残念ながら、僕たちプロであっても、店頭で商品を見ただけでは和牛と国産牛と輸入牛を100%完璧に見分けることは出来ないのだ(特に国産牛と輸入牛)。
ミもフタもないような結論で申し訳ない。
「僕にはわかる」と言えばカッコイイかもしれないが、正直で本当の答えはそうなのだ。
「美味しいお肉の見分け方」なら、ある程度教えることはできる。
「和牛と国産牛と輸入牛を完璧に見分ける方法」を素人さんに教えるのは無理だ。
僕だって「見る」だけじゃ完璧にはわからないんだから…。
(だいたいの検討はつくんだけどね)
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